私のウェブサイトOffshoreには、「Contact」という問い合わせフォームがあるのだけれど、誰かがこのフォームから本当に私に「問い合わせ」てくることなんて滅多にない。2年に1回あるかないか、ぐらいだ。今尾さんは、まさに2年に1回の人であり、突然、連絡をくださった。内容は、今尾さんが京都クラブメトロで開催する展覧会でバーカウンターに1日立ち、その後、展覧会のことを文章にしてほしい、とのことだった。なんて面白い依頼をしてくる人がいるのだろう、とパソコンの前で笑いつつ、今尾さんの名前でGoogle検索し、そういえばどこかでお名前を見た/聞いたことがあったなあと考え、すぐに「ぜひやらせてください」と返信した。
メトロのバーカウンターと言えば、私が生まれて初めて辛いジンジャーエールを飲んだところである。デタミネーションズとか見に行ったなあ。Jeff Millsが来日する度に見に行ったなあ。シンガポールから招聘したバンドThe Observatoryを、当時メトロ店長だったジャックさんにブッキングお願いしたなあ。そして当時メトロの名物ライブイベントだった『感染ライブ』にThe Observatoryに出てもらったら、対バンしていたkk mangaのボーカルがライブ中に吐いて、それをスタッフが何事もなかったかのようにササッとモップで掃除して、ライブが全て終わってハイエースにThe Observatoryと乗りこんで、恐る恐る「ライブどうだった?」と聞いたら全員が「kk manga最高!」と言ってたこととか……。メトロでの思い出がぶわっと脳裏に浮かび上がった。そういえば、『感染ライブ』って今思えばすごいタイトル。これを書いている2021年1月3日、『感染ライブ』でGoogle検索すると、ライブハウスでのCOVID-19クラスター感染に関する記事や、ライブハウスの感染対策HOWTO記事がヒットして、肝心のあの面白かったライブイベントの情報が下層に押し込まれてしまっている。
展覧会まであと数日というところで、なんと私のデイジョブ先である文化施設でCOVID-19感染者が出た。「濃厚」接触はしていないが、そのスタッフの担当業務上、少なからず私も接触している。濃厚接触していないなら、楽観視するべきか?うーんとしばらく考えるも、万が一私が無症状で感染していてクラスターを起こしてしまう場合を想定すると、恐怖で体が縮こまる。私が起因となりクラスターが起こり、万が一メトロが今後営業できなくなってしまったら……?The Observatoryとの『感染ライブ』での記憶も、いろんなライブやDJを見た記憶も、それよりも今後の自分の生活、人生、すべてが崩れ去るのでは?
今尾さんに状況を説明すると、すぐに「こちらで費用は持つのでPCR検査を受けてください」と判断をしてくれた。普段において、アーティストや創作に携わる人を支えている私ではあるが、もし自分が今尾さんの立場だったら。その瞬時に、一番ふさわしい選択を選び取ることができただろうか。
すぐ、自宅近くのクリニックでPCR検査を受け、無事に陰性結果が出た。12月17日の『work with #9』にご来場の皆様!私はあの日、COVID-19陰性でドリンクをサーブしておりました!と明るく書いてみるが、実のところあの当日までもやもやした。陰性だったからと言って、うれしいとか、良かったとか、そういった感情は増幅されず、怒りが積み重なった。どうして日本政府はPCR検査をもっと拡大できないのだろう?中国では無症状でも希望者は2000~3000円で検査できるらしい。よっぽど貧乏な国になってしまったということなんだろうか。そして、私たちはいつまでこの国の無計画なCOVID-19対策にじわじわ首を締め付けられるんだろう。いつまで私たちはこのまま大人しく黙ってやり過ごすんだろう。